肥育や肉質に影響がない一方で 温室効果ガスの削減効果は顕著だ

そこで、海に目を向ける研究者がいます。海草・海藻を主要な産物として農業に取り入れることで、気候変動を改善できるのではないかというのです。現時点では気候変動を必ず解決できる確固たる策は存在しないことから、この小さな海の生命に大きな期待の目が向けられています。

11月に行われる中間選挙の結果次第では、議会の多数派が変わり、次期農業法の議論にも影響が出る可能性がある。世界的に食料問題が注目を集める中、農業大国である米国が、気候変動や食料の安定供給に向けてどのような方向性を打ち出すか注目したい。

一酸化二窒素は、ふん尿に含まれる窒素化合物に由来する。エサに含まれるタンパク質の量を減らせば、ふん尿になって出てくる窒素量を減らせ、温室効果ガスも減らせる。

「そのころ、牛のげっぷが温暖化を助長するという話が盛んにされていました。私たちは、牛がいる農業を素晴らしいと思っています。そんなに牛を悪者にしなくてもいいんじゃないか、何かできることはないかと感じていたときだったので、声を掛けられてすぐ協力を決めました」

2020年10月、菅元総理が2050年までに日本の温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすると発表しました。EUや英国、アメリカなどの主要国も同様に、2050年までの温室効果ガス排出実質ゼロを目標として掲げています。この「実質ゼロ」とは、温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにするという意味です。これを「カーボンニュートラル」と言います。

だが、脱炭素化を日本より早く打ち出した欧州、なかでもフランスでは、14年に「農業未来法」を定めて環境保全型のアグロエコロジーを推進し、パリ協定が採択された15年のCOP21で農地の炭素貯留を促進する「4パーミルイニシアチブ」を提唱している。これは、先ほどふれた、地球全体の大気中の炭素増加量が年間43億tであることに関連している。世界の土壌表層に1兆tある炭素を年間4パーミル(0.4%)ずつ増やせば、それをほぼ帳消しにできるという計算だ。その方法として、堆肥や緑肥の投入、草生栽培や不耕起栽培、炭(バイオ炭)の投入などで、農地への炭素貯留を増やすことを提案しているのだ。

──ひと口に農業を通したCO2削減と言っても、さまざまな取り組みの種類があるんですね。

肉用牛の飼育で発生する温室効果ガスは、消化器官内で生じるメタン(CH4)が二酸化炭素(CO2)換算で最も多く、次いでふん尿の処理過程で生じる一酸化二窒素(亜酸化窒素、N2O)が多い。

肥育や肉質に影響がない一方で、温室効果ガスの削減効果は顕著だ。

温暖化への寄与が最も大きい温室効果ガスは二酸化炭素で、次がメタン、そして一酸化二窒素と続きます。これら3つの温室効果ガスが、農地から発生したり、農地が吸収したりするしくみを図に表しました。

農業分野からの総排出量は直近30年間で6%増加しているものの、同期間の単位生産量当たりの排出量を比較すると、例えば豚肉の排出量は21%減少、牛乳の排出量は26%減少となるなど、農業分野では確実に生産性の向上が図られてきたとされている。

温室効果ガスだけではなく、他の環境負荷とのトレードオフも考える必要があります。例えば、有機物の投入増加は、硝酸性窒素による地下水汚染や閉鎖性水域での富栄養化などを引き起こす場合もあります。以上のように、考慮すべきことがたくさんあり、さらに、生産性も当然考える必要があります。上で示した緩和策は基本的に正しいですが、私たちは、引き続き「総合的にみて結局どうなのか」という情報を提供するべく、研究を行っていますので、今後にもご期待ください。

東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻土壌圏科学研究室と新潟県農業総合研究所基盤研究部の共同研究グループは、畑圃場において土壌にココナッツハスクと粒状有機質肥料を施用して作物を栽培すると、ココナッツハスクを施用しない場合と比べて土壌からのN2O排出量がほぼ半減するという、驚くべき現象を見出しました(図1)。ココナッツハスクは隙間が豊富で軽量・安価な素材であることから、土壌の改良資材として用いられています。圃場からココナッツハスクと土壌を採取して注意深く観察すると、施用したココナッツハスクの隙間にササラダニなどの土壌動物が生息しており、それらは土壌粒子上の糸状菌の菌糸を摂食することが分かりました(図1)。このことから、N2O排出量が半減したメカニズムとして「土壌に施用したココナッツハスクが住み家となって菌食性土壌動物が増加し、N2O生成糸状菌を多く摂食したことにより、土壌からのN2O排出量が低減した」という仮説が考えられました。この仮説の妥当性を検証するため、圃場と実験室内において詳細な実験を行いました。

みなさんが「農業」から想像するのは、美しく広がった緑の農地で、作物が二酸化酸素を吸収する光景でしょうか。

植物が二酸化炭素を吸収することは知られていますが、どんなに田畑で食用の植物を増やしても気候変動は改善されません。農作業では、農地の保全や農業機械の燃料消費などで大量の温室効果ガスを排出するためです。そのため、陸ではなく海での食料生産に着目した研究が進められています。今回のYouTubeのサイエンス系動画チャンネル「SciShow」では、サステナブルな農作物として注目される「海草・海藻」の可能性に迫ります。

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