金融教育を進める様々な機関や団体の協力も大きな力となる
子供たちが自分の生活や社会について考え、生き方や価値観を練り上げることは教育全体の大きなテーマである。したがって、それを実現するための方法も多様であり、ひとり金融教育だけがそれを担うものではない。しかしながら、お金を手がかりに授業を進めることによって、子供たちは生活や社会にかかわる知識や物事をより具体的に把握し、理解することができる。また、課題の発見や解決に取り組む上でも、問題をより身近なものとしてとらえ、他人事ではなく自分の問題として、現実に即し、自分なりに工夫し、判断し、行動する力を養うことができる。このように、金融教育は子供たちに、現実に足場を置いてしっかり考える基礎力を付け、たくましく生きる力を養わせる上で大きな利点をもっている。
従って、学校において金融教育に取り組む際は、教科等の学習において、お金を題材に取り上げたり、自分の暮らしや将来、自分と社会とのかかわりを意識させたりしながら、それらを総合的な学習の時間につなげ、体験的学習などを交えながら、自分の生き方や価値観の形成に導いていくというかたちが望ましい。
子供たちの成長に願いを込める保護者や教育を受ける子供たちの立場に立って金融教育の意義をより魅力あるかたちで表現すれば、次のように整理することもできる。
上で述べた横軸、縦軸の視点に加え、過去に学ぶことも意味あることのように思われる。日本には伝統的な金銭観がそれぞれの社会階層の中に様々なかたちで存在していた。既に廃れてしまったもの、今も生きているものなどいろいろであるが、そのときそのときの時代環境の中で、先人たちがどう生きてきたかを金銭とのかかわりの中で理解することは、現在の私たちが自分の価値観を磨く上で大事な示唆を与えてくれるように思われる。同様に諸外国における歴史的な金銭観の推移や現在の人々の考え方を知ることも私たちにとって大いに参考になろう。広く歴史や世界に目を向けて、自分のお金とのかかわりを見つめることは、金融教育をより幅のあるもの、より深味のあるものにするように思われる。
金融教育は就学前の段階から、小・中・高等学校、そして社会人教育まで、一連のつながりをもって取り組まれるものであるが、学校段階だけに限っても、小学校から高等学校まで子供たちの発達段階に応じて継続的かつ発展的に取り組まれることが必要である。本書ではそうした視点から継続性あるプログラムの提示を試みたが、それをより有効に機能させるためには、幼-小、小-中、中-高、高-大、高-社など学校段階を越えた連携も必要となろう。その点、最近では小中一貫、中高一貫、小中高一貫などの取り組みが展開されており、そうした学校での金融教育の取り組みが大いに参考になるように思われる。
いまの子供たちは生活体験、社会体験等が不足しているといわれる。金融教育は現実の社会を知るための知識を学ぶが、それだけが目的ではない。体験的な学習などを通して、知識や課題を常に自分の暮らしや生き方とかかわらせながら理解し、それを現実の場で活用したり、行動に表す部分が大事な構成要素となる。従って、金融教育は常に実社会や自己の生活といった現実に目を向けさせる窓としての実学的性格をもち、やがて子供たちが生活者や社会人としてその役割を果たすための予備教育となる。
いまの子供たちは何事につけ簡単に答を知りたがる傾向があるといわれる。金融教育は、金融分野の知識や情報を得ることだけでなく、教科等の学習で得た知識や、自分なりの経験・判断を織り込みながら、課題解決に向けて、総合的に組み立て、高度に応用する力を養う点に特徴がある。得られた知識、友だちの考え方、自分の価値観、現実的な制約等様々な条件を加味しながら、課題解決のためのいくつかの選択肢を考え、その中から最良と思われるものを選び取る過程で、子供たちは物事を複線的にとらえ、柔軟でたくましく生きる基礎力を培うことができる。
現在多くの学校で環境教育や食育への取り組みが行われている。これらの教育が目指す直接的な目標は金融教育の目標と必ずしも同じものではないが、多少視点を広げてみると、金融教育との接点は少なくない。例えば、環境教育の中で問題を金銭に換算して事態の深刻さや対応のあり方を考えたり、水やエネルギーを題材に価格や産業の働きと関連付けて環境問題を取り上げることなどがあり得る。また食育との関連では、調理実習での食材選択や食材の生産・流通等に目を向けたり、食育の必要性を医療費との関連で理解させたりすることなどがあり得る。
学校教育が子供たちに培って欲しいと期待している能力として「自立する力」と「社会とかかわる力」を挙げることができる。金融教育の意義をそうした観点からとらえれば、次のように整理することができる。
このように金融教育を通じて、人生で一番お金がかかるのは何で、どれくらいの金額になるかを若い時から知っておくのは、大きなメリットがあります。
金融教育は、お金や金融の様々な働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育である。
金融教育を進める様々な機関や団体の協力も大きな力となる。特に金融というやや専門的な分野に関してはそうした専門家のサポートは現場の教師が自信をもって教えていく上で大きな支えとなる(関係機関等の支援内容については第3章で詳述)。
総合的な学習の時間は「自ら課題を見付け、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する資質や能力を育成するとともに、学び方やものの考え方を身に付け、問題の解決や探究活動に主体的、創造的、協同的に取り組む態度を育て、自己の生き方を考えることができるようにする」ことを目標とし、指導計画の作成と内容の取扱いにおいて、各教科、道徳及び特別活動で身に付けた知識や技能等を相互に関連付け、学習や生活において生かし、それらが総合的に働くようにすることとされている。その趣旨からすれば、金融教育は総合的な学習の時間で取り上げてこそよりトータルなものとなり、より生きたものになるといえる。
地域の支援も大切である。地域は子供たちが触れる最も身近な社会である。そこで子供たちは親や教師とは違う様々な人と触れ合い、その人の生き方や社会の仕組み・働きを知る。また、学校において金融教育を進める上で、子供や教師より現実の経済をよく知っている地域の人たちが協力してくれることは、教育内容を実感をもって伝える上で大いに寄与する。さらに学校において職場体験等を実施する際には地域の協力は不可欠の条件となる。
(一財)日本経済教育センターが発表した報告書では、経済教育はミクロ的には個々人の合理的な意思決定能力を養うとともに、マクロ的には実際の経済社会に対する理解とそれを踏まえた政策課題解決への取り組み態度の育成をねらいとしている。金融教育においても、ミクロ的な意思決定に関する内容は、「A。生活設計・家計管理に関する分野」において取り扱われているほか、マクロ的な理解は「B。金融や経済の仕組みに関する分野」で広く取り上げている。なお、金融教育において経済教育的な内容を取り上げる場合には、金融教育の特徴を生かして、なるべく個々人の主体的な生き方につながるような形で進められるのが望ましい。