骨太の方針2022 日経

特に、岸田政権が「人への投資」を重視する方針を打ち出した点は評価できる。2013年以降の自民党政権による骨太の方針について、文中で使用された人的資本関連の単語出現数をみると、「人的投資」に直接的に関わる単語(人的資本、人的投資、人への投資、人材投資)の出現数は今回の骨太の方針2022が最多となっている(図表2)。

このように、「人への投資」を重点投資分野として位置付ける岸田政権の方向性は正しいと考えられるが、骨太の方針2022に盛り込まれた「3年間で4,000億円」の「人への投資」施策パッケージは規模が小さく、経済成長率の引上げには力不足と言えるだろう。みずほリサーチ&テクノロジーズは、日本の成長率を欧米並みに引き上げるために、官民で年間4兆円程度の人的資本投資が必要であると試算している(図表3、詳細は服部(2022)を参照)。現状対比の追加額は年間2.3兆円、うち1.3兆円を公費負担すべきであるとした。

その点で、骨太の方針2022において「官民の投資を先導するために十分な規模の政府資金を、将来の財源の裏付けをもった「GX経済移行債(仮称)」により先行して調達し、複数年度にわたり予見可能な形で、速やかに投資支援に回していくことと一体で検討していく」、「グリーンイノベーション基金による支援の拡充や規制改革、国際標準化など、社会システム・インフラ整備に取り組む」といった方針が示されたのは妥当である。次回エネルギー基本計画改定(2024~25年)の過程では、排出削減目標の高さと課題を改めて確認することになると思われる。その段階で、欧州事例などを参考にして補助金の拡充やカーボンプライシングの導入等が実施される可能性が高く、グリーン化投資は2024~25年以降に加速するとみている。

また、化学技術・イノベーション支援についても、日本の産業競争力を強化する観点から重要だ。足元で「悪い円安」が意識される背景として、円安が輸入物価の上昇を増幅させるデメリットが顕在化していることに加え、従来よりも円安のメリットが発揮されなくなっていることも大きい。製造業の海外生産シフトや半導体などの供給制約に加え、円安局面においても日本のエレクトロニクス分野等で付加価値ベース輸出額が伸び悩むなど、円安のハンディキャップがあっても補えないほど日本産業の国際競争力が低下してきている点には留意しなければならない(図表6)。骨太の方針2022に掲げられているように、研究開発投資の支援や博士課程学生のキャリア支援等を通じてイノベーションを促進し、中期的に産業競争力を高めていく必要がある。

骨太の方針2022においては、グリーン・トランスフォーメーション(GX)について「今後10年間に150兆円超の投資を実現する」ことが掲げられている。グリーン化の推進に向けては、追加的な必要投資額における中小企業の負担を軽減する必要がある(酒井他(2022)は、投資コストなどがグリーン投資本格化の障害になっている点を指摘している)。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、政府が掲げる「2030年温室効果ガス▲46%削減」目標を実現するために、2030年までに累計で10~20兆円程度の財政負担が必要になると試算している(図表5)。グリーン成長戦略(2020年)で創設されたグリーンイノベーション基金の規模は10年間で2兆円にとどまり、力不足であることから、さらなる公的な支援の拡充が求められる状況だ。

DXについては、骨太の方針2022において規制の見直しや行政のデジタル化の促進等が掲げられている。政府の様々な施策について、対象者による申請を執行の前提とする「プル型」行政から、経済ショックや制度改正に際して政府が能動的に対象者を把握し、迅速に給付等を行う「プッシュ」型行政へ転換することが、行政のDXの本丸であると筆者は考えている。酒井・古谷(2020)が指摘しているように、各種給付措置を漏れなく早期に執行できるように体制を整備することはコロナ禍の対応で浮かび上がった喫緊の課題だ。行政手続きのオンライン化にとどまらず、行政のあり方を変革させる必要がある。政府による経済対策(各種給付措置等)や制度変更を全ての人が正しく認識しているとは限らないが、行政側が個人の収入状況を把握し、個人の申請が無くても必要な人に自動的に給付が行われるようになれば給付漏れを防ぐことが出来る。マイナンバーカードの普及を含め、更なる推進を期待したい。

骨太の方針2022におけるその他の重点投資分野である②科学技術・イノベーション投資や④GX・DX投資は、これまでの政権でも取り組まれてきた分野ではあるが、更なる推進が必要である。

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