骨太の方針2022 歯科検診

神様:6月7日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」を閣議決定しました。報道などを見てご存知だと思いますが、今回注目されたのは「歯科検診」です。T:国民全員に対して生涯を通じた歯科検診を行っていくという話を聞き、唐突感があったのですが、どういう事情なのでしょうか?神様:歯の健康、口腔の健康については、2022年の骨太の方針で初めて登場したわけではありません。2017年の骨太の方針において「口腔の健康は全身の健康にもつながることから、生涯を通じた歯科健診の充実、入院患者や要介護者に対する口腔機能管理の推進など歯科保健医療の充実に取り組む」という記述が登場します。それ以降は毎年記載されてきました。T:それではなぜ今回報道などで注目されたのでしょうか?神様:骨太の方針2022では、一歩踏み込んで「生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)の具体的な検討」が加わりました。このことについて日本歯科医師会は、「実効性が増すものと受け止めている」と見解を述べています。どのような形になるかはわかりませんが、国民の歯科検診への取り組みが強化されることは間違いないでしょう。T:なるほど。なんとなくは理解できるのですが、実際に歯の健康は全身の健康につながるのでしょうか?神様:歯科診療にかかる医療費・件数は、緩やかに増加傾向にあります。2020年はコロナ禍によって減少に転じたものの、2021年は再び増加し、医療費もコロナ禍前を上回りました。厚生労働省の公表資料をもとに歯科診療医療費の割合を年齢別で見てみると、45歳以上で緩やかに大きくなり、65歳から75歳で最も高くなっていました。これは、歯科診療へのニーズがすでに高まっていることを示しています。

日歯は、この“骨太の方針2022”については、「これまで提言してきた内容のほぼすべてが反映され、歯科界が目指す“歯科医療と口腔健康管理の充実”により、国民の健康寿命の延伸をはかり、働き手や支え手を増やすことで人口減少問題にも貢献する」と理解しているようだ。確かに過去の“骨太の方針”における明記は、生涯を通じた歯科健診の対応を課題にしていたが、具体的表現として“歯科健診”がクローズアップされたのが、5月25日、自民党「国民皆歯科健診実現議連」(会長・古屋圭司、事務局長・山田宏)を中心に、“党人生100年時代戦略本部の国民皆歯科健診実現プロジェクトチームチーム(座長=古屋衆院議員)が、“健康寿命の延伸に向け歯科健診受診率向上の取り組みの充実・強化を求める”提言を松野一博内閣官房長官に申し入れたことからである。これで一躍注目され、今回の“骨太の方針2022”への明記に繋がったが、それ以前にリークを受けたマスコミが要旨をネットで報道。国民に一部 “歯科健診の義務化”と報道されたこともあり混乱したが、社会に一石を投じた。こうした一連の動きや経緯についてオクネットが任意に日歯会員に意見を求めた。「新聞報道で知り驚いたが、良い方向性だとは思う。ただ、実現は簡単ではないはず」(都歯会員)、「同僚の歯科医師から教えてもらった。まあ、突然な気がしたが、山田議員が主導していると実感した。“骨太の方針”に歯科健診はどの世代でも必要なことを訴えることは賛成です」(都歯会員)、「義務化という話でしたが、それは無理でしょう。意味合いが違うと思ったが、いずれにしても、ここまで来たか、という実感はある」(千葉県歯会員)、「最後は議員が出てきますね。具体的な中身は、これから議論をして行くようだが、大変ですね。以前ですが、一部企業などで実施し、医療費削減効果を出している資料を見た記憶がある」(愛知県歯会員)、「日歯・日歯連携ですね。山田先生が目立っているけど、他の歯系議員との連携はどうなのですかね。上手くやっていると理解してますが」(福島県歯会員)、「現実的には、財源・歯科衛生士の確保などの問題が出てくると思うが、まずはそこまで国民に理解・浸透させないと」(静岡県歯会員)。全体としては、その方向性は理解・評価するが、具体的には、難しい課題があるとの指摘。イメージ先行を懸念する意見もあったが、「臨床現場は、今までと変わらないけど、どこまで進んで行きますかね」と冷静な意見もあった。

日本歯科医師会は6月8日(水)、歯科医師会館で記者会見を開催し、7日(火)に「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針2022)」が閣議決定されたことを受けて、それに対する見解(別添資料)を示しました。 挨拶に立った堀憲郎会長は、見解の概要を述べる中で、骨太の方針2022の閣議決定前に歯科部分の記載内容が注目を集めたことについて、国民や各方面から関心がある反面、誤解が生ずることへの懸念として、「歯科健診の義務化がすぐ始まる」「歯科健診が医療費抑制を目的とする」というイメージが一人歩きしていることを挙げました。 「生涯を通じた歯科健診の充実を図る」という骨太の方針への記載は、今回で連続6回目であり、「具体的な検討をする」となったことで、議論が深まることへの期待を示しましたが、方向性としては決して新しいものではないと強調しました。 また、今回の趣旨は全身の健康の増進に向けて、口腔のチェックを推進しようというもので、これから必要なこととして「口腔と全身の健康との関係のエビデンスの精緻化」「歯科健診の重要性のさらなる理解」「健診の仕組みの検討」「データの標準化」など、課題は多いとの認識を表明。それらに一つひとつ取り組み、議論を深化させることが必要で、現時点で直ちに「義務化」の部分だけが議論されるものではないとしました。 さらに、「医療費抑制」という表現が盛んに出てくることについて、歯科健診の充実の目的は「口腔と全身の健康増進、健康寿命の延伸」であり、医療費の削減はその結果としての可能性であって、目的ではないと強調。歯の数が多いほど医療費が低いといったデータや、歯周病の治療で糖尿病が改善する事例報告などのほか、口腔と全身の健康との関係のエビデンスが示されていることから、定期的な歯科健診は、歯科以外にも全身の健康に関わるものと述べました。2017年に、経済財政諮問会議でも取り上げられた「入院患者への口腔機能管理の徹底で、入院期間が1割以上短縮される」といったデータもあり、それは医療現場の負担軽減、即ち「医療のニーズの総量を減らす」ことにつながる可能性への期待を示しました。

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