#1

[MARKOVE] 10月1日からマイナンバーカードを保険証として利用するマイナ保険証に関しての制度が改定される。だが、利用すると必ず医療費が安くなるわけでは、実はない。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第247回では、その賢い利用の仕方と注意点を詳しく見ていこう。 マイナ保険証の制度改定が10月1日にでも、利用で医療費が全員安くなるわけではない 10月1日から、「マイナ保険証」に関連する医療費が見直される。 マイナンバーカードを健康保険証として利用するシステムは、2021年10月に本格導入され、今年度の診療報酬改定で病院や診療所、薬局の報酬に加算が付けられた。 このときの改定は、マイナ保険証に対応できる医療機関を増やすための誘導策として、患者がマイナ保険証を利用すると、健康保険証で受診するよりも医療費が高くなるように設定されていた。 一般的な買い物において、消費行動につながるのは、割引が受けられたり、ポイントがたまったりして、「使うとお得になる」ということが条件だろう。ところが、マイナ保険証は「使ったほうが損をする」という制度設計になっており、国民目線を欠いた診療報酬のつけ方には疑問の声も上がっていた。 そこで今回、マイナ保険証を利用する人の医療費を引き下げることで、利用の拡大が図られることになったのだ。 ただし、この医療費の仕組みが適用されるのは、マイナ保険証に対応している医療機関や薬局だけで、利用には落とし穴もある。マイナ保険証の利用がお得になるのは、どのようなケースなのか。見直し内容を確認してみよう。 ●当初は「マイナ保険証」提示のほうが医療費が高くなる制度が是正された ●だが、現状では「マイナ保険証非対応病院で従来保険証の提示」が最も医療費が安くなる [/MARKOVE]

#2

[MARKOVE] 医療機関の利便性を高めることが目的“医療DX”のために生まれたマイナ保険証 「健康保険被保険者証(健康保険証)」は、健康保険に加入していることを証明する身分証だ。 病院や診療所、薬局を利用したときに、窓口で患者が支払っているお金は、かかった医療費の一部で、現在は年齢や所得に応じて1~3割が患者負担分となっている。残りの7~9割を負担しているのが、患者が加入している健康保険組合で、医療機関では健康保険証を見て、医療費の請求先を確認している。 この健康保険証の代わりに、マイナンバーカードの個人認証機能を使って、本人確認や健保組合の特定を行うのが、いわゆる「マイナ保険証」だ。 導入の背景にあるのが、国が目指すデータヘルス改革だ。新型コロナウイルス感染症の感染拡大で、日本の医療現場の混乱ぶりが明らかになったが、その一因となっているのがIT化の立ち遅れだ。そのため、国は、医療分野にもデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れて、患者の医療情報を有効活用することで、業務を効率化させて、安心・安全で質の高い医療を提供していくことを目指している。 マイナ保険証を登録すると、過去にかかった医療費、特定健診や処方されている薬の情報などが、ポータルサイトで閲覧できたり、限度額適用認定証がなくても窓口で高額療養費の適用が受けられたりできるようになる。 医療機関では、患者の健康保険の資格情報の入力が省けて事務作業が軽減できる。患者の同意があれば、医師や薬剤師なども、患者の医療情報を閲覧できるので、正確な情報に基づく、よりよい医療の提供が可能になるという。特に災害時は、患者の同意があれば、マイナンバーカードがなくても、ポータルサイトで管理されている情報を基に、必要な薬の処方や医療の提供ができる。 このように、集約した医療情報を活用することで無駄な投薬や検査を省いて、効率的で効果的な医療の提供体制を構築し、ひいては国民医療費の削減につなげようとしているのだ。 だが、病院や診療所、薬局がマイナ保険証を導入するためには、マイナンバーカードの情報を読み取るためのカードリーダーなどを設置しなければならない。 そこで、国は設置費用の補助金制度をつくるとともに、マイナ保険証を利用できるようにした病院や診療所、薬局に対して、22年4月から、医療機関の収入となる診療報酬・調剤報酬にも加算を付けることにしたのだ。 その報酬が、「電子的保健医療情報活用加算」というもので、「マイナンバーカードで健康保険の資格確認を行う体制を取っている」などの施設基準を満たしていることが、加算を取るための要件となっている。この診療報酬改定によって、マイナ保険証に対応している医療機関を利用した患者の医療費に、22年4月から次のような加算が付けられるようになったのだ。 [/MARKOVE]

#3

[MARKOVE] マイナ保険証を使うと医療費は12円高くなる!? 当初は、具体的には以下のような加算の状況になっていた。 これを見ると分かるように、22年4月の診療報酬改定は、マイナ保険証を使うと、従来の健康保険証を提示するよりも、医療費が高くなるように設定されていた。たとえば、その病気で初めて病院を受診した場合、従来の健康保険証を提示すると30円(3割負担で9円)なのに対して、マイナ保険証を利用すると70円(3割負担で21円)の加算が付いていた。 こうした値付けは、一般的な消費者心理には逆行しており、マイナ保険証の普及の妨げになる可能性がある。 そこで、「電子的保健医療情報活用加算」は廃止されることになり、22年10月から、代わりにつくられたのが、「医療情報・システム基盤整備体制充実加算2」という加算だ。この診療報酬の改定によって、マイナ保険証に関する医療費は、次のように見直されることになった。 このように、22年10月以降は、従来の健康保険証で受診するよりも、マイナ保険証で受診したほうが、1カ月の医療費は全体で20円(3割負担で6円)安くなる。薬局の負担も、マイナ保険証を利用したほうが、健康保険証を提示するよりも医療費は安くなる。 ただし、2つの表を見ると分かる通り、健康保険証よりもマイナ保険証の利用が有利になるのは、マイナンバーカードを読み取れるカードリーダーなどを設置している医療機関や薬局だけだ。 [/MARKOVE]

#4

[MARKOVE] 現状はマイナ保険証非対応の病院で健康保険証で受診するのが一番安くなる オンライン資格確認ができる体制が整っていない病院や診療所、薬局では、そもそも加算自体が付かない。そのため、現状では、マイナ保険証に関する医療費については、マイナ保険証に対応していない病院や診療所、薬局を利用するのが、一番医療費が安くなる。 マイナ保険証を利用すれば、すべての病院や診療所、薬局で医療費が安くなるわけではないのだ。反対に、マイナ保険証に対応していない病院や診療所、薬局にマイナンバーカードを持っていっても、健康保険の資格確認ができない。そのため、いったん医療費全額(10割)の支払いが求められることになる。 健康保険証を持たずに受診して、窓口で医療費の全額を支払った場合でも、加入している健康保険組合に療養費を請求すれば、自己負担分を除いた分を後から取り戻すことはできる。とはいえ、健康保険が使えないと、その分、持ち出しが多くなるので、注意が必要だ。 厚生労働省は、23年4月までに、すべての病院や診療所、薬局に対して、マイナ保険証による健康保険の資格確認システムを導入することを義務付けている。マイナ保険証を利用する体制が整えば、現在の加算も見直されて、受診する医療機関によって医療費が異なるということもなくなるはずだ。 だが、9月4日現在、マイナ保険証による健康保険の資格確認ができる医療機関の割合は、病院が44.7%、医科診療所が19.1%、歯科診療所が20.0%、薬局が49.0%で、いずれも半数に満たない状況だ(厚生労働省「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」より)。 現状では、受けた治療内容は同じでも、マイナ保険証に対応している医療機関かどうかで、医療費は数円~数十円の差が出ることになる。 当面は、医療機関や薬局を利用するときには、マイナンバーカードと健康保険証の両方を持参して、マイナ保険証の対応状況に合わせて、お得になるほうを使い分けるのが得策のようだ。 [/MARKOVE]

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